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三谷純のブログ

イスラエルでの折り紙イベントの報告

12月18〜20日の3日間に行われたイスラエル折り紙コンベンションに招待いただき、前後併せて9日間、イスラエルに滞在してきました。

イスラエル折り紙センターを運営している、ミリ・ゴランさんとポール・ジャクソンさんご夫妻の厚意で、滞在中は移動から食事まで行動をご一緒させていただきました。イスラエルというと安全を気にされる方が多いと思いますが、コンベンション前後はミリさんポールさんのご自宅に宿泊させていただき、11歳のジョナサン君と共に、平和であり、かつエキサイティングな日々を過ごさせていただきました。

というのも、スケジュールが驚くほど過密で、まさに次から次へとワークショップと講演をこなす必要に迫られる毎日でした。ミリさんとポールさんが、盛りだくさんな企画を立てており、コンベンションでの3回のワークショップと2回のトーク以外にも、Shenker大学とHolon大学での講演とワークショップ、さらには小学校で算数を教えている先生120名を対象とした講演とワークショップも行いました。


ミリさんはイスラエル折り紙センターの運営を主に行っていて、折り紙や本の販売、ワークショップの開催などを行っています。また、20年以上の学校教育の経験があり、幼稚園でのアクティビティや小学校低学年の算数教育に折り紙を導入することに熱心な活動を行っています。

ポールさんは、イギリス人の折り紙作家ですが、イスラエルに移ってからは、折り紙の創作活動や本の執筆とともに、デザイン大学での授業を受け持っています。ポールさんの書籍「Folding Techniques for Designers: From Sheet to Form」の日本語訳「デザイナーのための折りのテクニック 平面から立体へ(文化出版局)」の監修を私が担当させてもらったご縁で、親しくしていただいています。


折り紙コンベンションは80名ほどの参加者だったということで、私のワークショップには各回20名くらいの参加がありました。このワークショップでは、予め準備しておいたテンプレートを用いて、曲線を含む折り紙の体験をしてもらいました。伝統的な「正方形の紙を折る」というものと異なるので、多くの参加者が驚いていました。その分、準備の方は大変だったようで、ミリさんポールさんには大変なご苦労をしていただきました。まず、厚紙で作ったテンプレートを紙の上に乗せて、先の堅い木製のスティックでなぞって折り筋を付けます。その後、折り筋に沿って山谷の向きに注意して折っていきます。形を安定させるために、のり付け(両面テープを使用)するので、ちょっと普通の折紙と違いすぎたかもしれません。曲線を折るのはなかなか難しいのですが、みなさん根気よく丁寧に取り組んでいました。


Shenker大学とHolon大学は、どちらもデザイン系の大学ということで、非常に高い関心を持って話を聞いてもらうことができました。ポールさんの話が上手で、場を盛り上げていただいたので、会場は楽しい雰囲気でした。いくつかの折紙設計用のソフトウェアのデモを行い、喜んでもらえました。ここでも、長方形の紙で球体を折り上げる体験をしてもらいました。みなさん、手を動かしてものを作るのが得意なようで、とても綺麗に仕上げていました。


小学校で算数を教えている先生への講演とワークショップでは、立方体の作成をしました。教材に折り紙を活用することを提案しているミリさんの活動の一環で、それに協力するような形での参加でした。折り紙と幾何学は密接な関係がありますから、初等教育における簡単な図形の学習に、折り紙を使うのはよい試みだと思います。適当に折り紙で遊ぶのではなく、「何を学習するのか」「そのために、何を折るのか」ということを、しっかり考えた教材を、それぞれのテーマで約10回分相当の授業教材を整備している点に感心しました。ヘブライ語で整備された折り紙を使った算数の教材が、近い将来に、イスラエルのたくさんの小学校で活用される見込みだそうです。


また、24日には、在イスラエル日本大使館が間に入っての、パレスチナAlQuds大学訪問も行いました。理工系の大学で、学内には数学ミュージアムがあり、楽しく見学させていただきました。ちょっとした数学のトリックを使った問題がたくさんあったのですが、私が知っているものが多く、出された問題にはパパッと回答することができました。現地で館内の展示を紹介してくれた方が、ビックリしていました。コンピュータサイエンスの大学教員として、日本の体面をどうやら保てたようです。

イスラエルパレスチナは大きな壁で隔てられています。この壁がいろいろな紛争の原因にもなっているのですが、壁の内外では街の風景がまったく異なりました。両国ともに、私の訪問をとても温かく迎えてくれましたが、両国を移動している人間に対しては、やはり複雑な感情を持っているように感じました。

日本大使館の協力により、まさに敵対している2国間を訪問するという貴重な体験をさせていただき、中東の込み入った現状を肌で感じることができました。移動中は大使館の方から、日本の外務省の仕事の話や、イスラエルその他、他の国の様子など、たくさんの話を聞かせていただきました。私はもっぱらコンピュータサイエンスの分野で研究をしている人間ですから、まったく異なる分野の話がとても興味深かったです。研究者としては、狭い分野を突き詰めることが大事ですが、一方で、大使館で活躍されている方のような、世界と時代を俯瞰するような広い視野も持ちたいものです。


イベントが無いのは、滞在中で、ただ1日でした。この日には、ミリさんポールさんにエルサレムの旧市街を案内していただき、また死海へも足を延ばしました。たった1日での観光なので、まさに弾丸旅行と言っていいもので、エルサレムの岩のドームや嘆きの壁など、大事なスポットを大急ぎで見て回りました。観光ブックやテレビのスクリーンを通してしか見ることができなかった宗教スポットを、実際に見て触れることができたのは、大きな衝撃でした。ここで自分が見てきたものは、いったい歴史的にどのような意味があるものなのか、また後でゆっくり振り返りたいと思っています。

死海は肌寒い気候だったものの、やはり来たからには泳がねば。ということで、震えながら水に入ったのですが、冷たさよりも足の裏の痛みに驚かされました。湖底がすべて塩の結晶になっているので、歩くと痛いのです。すぐに仰向けになって、プカプカ浮かびながら移動しました。海抜マイナス420メートルと言う、不思議な場所での不思議な体験でした。塩水を口に含むと、思い切り吐き出さずにはいられないほど刺激的な塩辛さでした。


イスラエルに滞在している間は、目が回るような忙しさでしたが、皆さんにとても親切にしてもらいました。いろいろな人に、たくさん話しかけていただき、楽しく充実した日々でした。時間にルーズで、いろいろなことがきちんとしていなくて、日本のような清潔さと正確さがない、ゆるーい、てきとうな感じで、そのおかけで多少の失敗も恐れずに、下手な英語でも、どうにかこなすことができました。ワークショップに参加していた子供たちは、とても気さくに笑顔で話しかけてくれました。


折り紙の研究をしていたら、どういうわけかイスラエルでたくさんの人と交流することができました。素晴らしいことだと思いました。



Holon大学での様子。



エルサレムにてポールさんと。