テストの問題をつくる立場から見た学力テストの問題
つい先日に、全国の小学6年生と中学3年生を対象とした学力テストが行われました。
早いもので、我が家の長女も6年生に進学したところだったので、
「テストあったの?どうだった?」
と聞いてみたところ、
「面白い問題があったよ」
という予想外の返事がありました。
難しかった、とか、簡単だった、という回答を想像していたのだけど。
その問題は次のようなものです。(設問(1)は省略)
月の見かけの大きさの変化を、硬貨の大きさに見立てる問題になっています。
なるほど、月の見かけの大きさが日によって違うことを意識している人は少ないでしょうし、それを1円玉に見立てるということもなかなか思いつかないでしょう。知的好奇心を刺激するという点から、とても面白い問題と言えそうです。
私は仕事がら、期末試験の問題を定期的に作っていますから、このような問題を見ると、作問の立場からも気になります。
問題を作るときには、その問題によってどのような能力を測るか、ということを最初に考えます。
今回の学力テストは、点数によって合否を決めることではなく、学習の達成度を測ることが目的ですから、なおさら個別の問題には明確な意図があるはずです。
この問題の場合は、小学5年生で学習する、百分率による比の概念を理解しているか問う問題だと思いますが、もう少し基本的なところで言うと、次のような能力が身についているかを確認できそうです。
- 比較的長い問題文を読み、問われていることを理解する文章読解力
- 月と1円玉という具体的な対象物を、円と言う図形に落とし込んで同一視する、抽象化の能力
- 百分率による比の概念、小数点を含む値の扱い
- 正答を選んだ理由を言葉で説明する能力
以上のように、丸暗記ではなく総合的な能力を必要とする問題として、よくできていると思います。
実際に、この学力テストには解説資料が公開されていて、それぞれの設問がどのような趣旨で出されているかが詳しく説明されています。ページ数は100を超えています。
http://www.sankei.com/module/edit/pdf/2017/04/syo6sansuu_kaisetsu.pdf
このなかに、今回の問題については、次のような記述がありました。
身近なものに置き換えた基準量と割合を基に,比較量に近いものを判断し,その判断の理由を言葉や式を用いて記述できるかどうかをみる。
さらに詳しい内容に興味がある場合は、資料に目を通してみるとよいでしょう。全体的によく考えこまれた設計になっているように思います。
私としては、月の見かけの大きさの大小の比率が、ちょうど1円玉と100円玉の比とほぼ同じであることを、作問者はよく知っていたなあということに感心しました。
この問題を見て、「面白い」と思った小学生が現にいるということは、作問者にとっても嬉しいことではないでしょうか。
例えば、この問題を解く中で、
「1円玉の直径ってちょうど2cmなんだ。だったら5個並べたら10cm。長さを測る道具に使えそう」
とか
「月の見かけの大きさって、日によって違うんだ。こんど確認してみよう。」
などのように、新しい興味が湧いてくる小学生もいることでしょう。
もしかしたら、「どうして1円玉は2cmなんだろう」「重さの比はどうなんだろう?」「本当の月の直径と1円玉の直径の比はいくつなんだろう」などと、いろいろ調べたくなるかもしれません。
このような興味を持たせることができれば、小学生に対する問題としては素晴らしいものではないでしょうか。
ちなみに、私が問題を作るときには、基本的な知識の理解を問う問題、その知識を使って実際の問題を解くことができるか問う問題、もう少し深く本質を理解しているか問う問題、そして最後に、いるかもしれない天才に向けた挑戦的な問題、という構成にすることが多いです。
問題を作る側のことも考えて、1つの問題に、どのようなメッセージが込められているか想像することも楽しいものです。
「学力評価」「教育」をキーワードに議論をすると取り留めなくなるので、今日は1つの問題の面白さと、その背景に対する推測のみ書くことにとどめます。
参考: