読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

みたにっき@はてな

三谷純のブログ

舘知宏氏の「建築折紙」のすごいところ

東京オペラシティタワー内のICCにて、2月28日まで開催されている「可能世界空間論」という展示を見てきました。
目的は舘知宏氏の「建築折紙」
今日は、作者らによるプレゼンテーションとディスカッションもあり、いいタイミングで見に行くことができました。


さて、舘氏の展示の内容ですが、今回は次のような3つのテーマに沿った作品がディスプレイされていました。

  • スタンフォードバニー、ユタティーポットなど、三角形メッシュモデルを対象とした折紙作品群とその展開図。スタンフォードバニーを制作している様子のムービーも。(作品紹介
  • 2.5m四方程の大きな剛体折り紙体験用の展示と、3DCGによるムービー。 (YouTubeのムービー)
  • ミウラ折りをベースとした幾何パターンに対する、平坦折り可能性を維持したままの変形操作を行える、体験型のソフトウェア展示。実際に作られた作品例も。 (YouTubeのムービー)


これらは、たぶん一般の方々の立場から見ると「折紙で何かスゴイことをしているのはわかるのだけど、何がどのくらいスゴイのか、よくわからない」ものだと思われます。
それだけにとどまらず、折紙が大好きな人、または建築に詳しい人にも、その中身を理解することは難しいでしょう。


なので、ここで彼の作品の何がスゴイのかまとめてみたいと思います。1つ1つが、本当に驚くほどスゴイことなのです。

三角形メッシュモデルの折紙作品

3次元CGの世界では立体の形を表現するのに、三角形の集まりを使用します。これを三角形メッシュモデルと言います。
この三角形メッシュモデルで表された形を1枚の紙で作るには「紙の一部分を襞として内部に折り込めばよい」というアイデアに基づいて、彼は展開図上での襞の適切な配置方法を考案しました(そもそも、三角形メッシュモデルを1枚の紙で作ろうと考えるところが普通ではないです。私は、切って貼って組み立てるペーパークラフトとして実現することを考えましたが、彼はそれを折紙で実現しようと考えました)。

そして、その襞の配置を計算によって求めるソフトウェアを実際に開発してしまったところがすごい。与えられた三角形メッシュに対する適切な襞の配置は簡単には求まらないので、収束計算によって妥当な解を算出しています。このようなシステムの実装は容易ではありません(このシステムの開発はIPA未踏ソフトウェア創造事業の公募に採択されています)。

そして、実際にそれらの折紙作品を自分の手で折りあげ、実証したこともすごい。得られた展開図は複雑で、作品によっては1つ10時間以上もかかったそうです。「自分の理論は正しいはず」という信念が無いと、ここまで頑張れないはず。

そして、これらのことによって、三角形メッシュで表現されるあらゆる形を1枚の紙で作れることを示しました。世の中のあらゆる立体は三角形メッシュに置き換えることができるので、つまり、あらゆる形を1枚の形で作れることを示したことになります!

剛体折り紙の展示

折紙の展開図は山と谷の折り線の集合で表現されますが、「平坦に折りたたむことができる展開図」は折り線の配置が満たすべき制約が厳しく、このような展開図を設計することは大変困難です。適当に配置した折り線は、ほぼ100%、平坦に折りたためません。平坦に折りたたむことができる「ミウラ折り」も、その折り線の配置をほんの少しでもずらしてしまえば、平坦に折りたためなくなります。彼は、この「平坦に折りたためない展開図」を「折りたためるように修正する」ためのシステムを開発しました。これによって、「今までと違うミウラ折り」を作り出すことができるようになりました。

一般的に、コンピュータで折紙の設計を行う場合には、紙の厚さを無視して計算を行うのですが、そうすると厚みのある素材で実物を作るときに問題が生じます。そこで彼は、厚みを持った素材でも稼働時に干渉せずスムーズに動くための構造を考案しました。そして、その構造を含む立体形状をコンピュータで計算するためのシステムを作り、2.5m四方という大きさの実物を作り上げて、その有効性を実証しました。展示物では、1か所に手を軽く添えるだけで全体が連動して動くようになっています。

展示に先立って、このような挙動をコンピュータでシミュレーションするためのプログラムを開発し、CGアニメーションの生成も行っています。剛体折紙の挙動を計算するのも、簡単な仕事ではありません。彼は全部自分でシステムを開発しています。

変形操作を行える体験型ソフト

展示されたソフトでは、ミウラ折りのパターンに折られた3次元の折紙の形をマウスカーソルで変形させると、それに連動して展開図の形状と、平坦に折りたたんだ様子が変化します。先ほど述べたように、「平坦に折りたたむことができる」という条件を満たすことは大変難しいことですが、この条件が常に満たされた状態で変形操作が行われます。これをインタラクティブに操作できるほど高速に計算して、ユーザーの操作に応じた「立体形状」「展開図」「折りたたみ後の形」を瞬時に提示することは、極めて大変なことです。

ソフトウェアの展示にあたっては、誰がどのような操作をするのかまったく予測ができません。途中でシステムが落ちないような完成度まで高めるのは大変なことです。



さて、以上まとめたように、折紙の世界での難しい問題を、次に次に解決し、独力で新しいシステムを開発し続ける彼の能力には驚かされます。
今回の展示では、これまでの彼の仕事が集約されていたのように思いました。


そして何より驚かされるのは、このような展示の準備を博士論文執筆と並行して行っていた(!)ということです。博士号取得後の今後の彼の活躍に、ますます期待したいところです。