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三谷純のブログ

人工知能と人間社会に関する懇談会 報告書(内閣府)の紹介

内閣府では、人工知能(AI)技術の目覚ましい進歩を踏まえ、AIが社会に与える影響について検討を行った報告書を、今年の3月にまとめています。

 

www8.cao.go.jp

 

ちょうど最近、ネット上では総務省の進めている人工知能の開発ガイドラインの策定が話題になっていたりしますが、それとは別のものですのでご注意を。

 

こちらの報告書は内閣府が主導でまとめたものであり、社会全般を見通したものとなっています。

報告書をまとめるために設立された懇談会は、国立情報学研究所の新井センター長をはじめ、法学、教育学、経済学、総合政策学など各分野を専門とする大学教授ら、弁護士、株式会社Preferred Networksの西川氏などから構成されています。

今日はこの報告書に目を通す機会があったので、簡単に紹介してみたいと思います。


この報告書では冒頭で

人工知能技術は、日本政府が目指すSociety 5.0の重要な基盤技術であり、少子高齢化がもたらす労働力不足などの社会課題の解決や誰もが自分の能力を発揮して活躍できる社会づくりに貢献し、社会に多大な便益をもたらすことが期待されている。

と、AI技術に対する期待を述べる一方で、

知らぬ間に普及し高度化し社会の在り方に根本的影響を与える可能性もあり、健全な利用のためにその影響を検討する必要がある。 

と続け、AIが社会へ与える影響に対して事前に検討することの必要性を述べています。


この報告書では、検討を必要とする論点として
倫理的論点・法的論点・経済的論点・教育的論点・社会的論点・研究開発論点
の6つを挙げています。

 

以下では、それぞれの論点について、報告書の中で太字で強調された部分を引用することで紹介したいと思います。


倫理的論点

  • 人工知能技術の進展に伴って生じる、人と人工知能技術・機械の関係性の変化と倫理観の変化
  • 人工知能技術によって知らぬ間に感情や信条、行動が操作されたり、順位づけ・選別さられたりする可能性への懸念
  • 能力や感情を含む人間観の捉え直し
  • 人工知能技術が関与する行為・創造に対する価値・評価の受容性。価値観や捉え方の多様性

法的論点

  • 人工知能技術による事故等の責任分配の明確化と保険の整備。人工知能技術を使うリスク、使わないリスクの考慮
  • 個人情報とプライバシーの保護も含めたビッグデータ利活用
  • 人工知能技術を活用した創作物等の権利の検討
  • 法解釈、法改正、法に関連する基本的概念の再検討の可能性

経済的論点

  • 人工知能技術による業務や働き方の変化:個人対象
  • 人工知能技術の利活用による雇用と企業の変化:企業対象
  • 人工知能技術の利活用を促進するための経済政策、労働移動を可能とする教育政策・雇用政策:国対象

教育的論点

  • 人工知能技術を適切に利活用するための教育
  • 人にとって本質的な能力や人にしかできない能力の育成

社会的論点

  • 人工知能技術との関わりの自由と共有可能な価値についての対話
  • 人工知能技術によるデバイド、社会的コストの不均衡、差別への対処
  • 新たな社会的病理の可能性、対立、依存への対処

研究開発論点

  • 倫理観、アカウンタビリティ、可視化
  • セキュリティ確保、プライバシー保護、制御可能性、透明性
  • 人工知能技術に関する適切な情報伝達と人文社会科学研究、融合研究の必要性
  • 人工知能技術の多様性確保と多様な社会への対応


報告書内では、それぞれについて想像される問題点などが個別具体的に書かれていて参考になります。

 

そして最後は次の一文でまとめられています。

人工知能技術を利用する人も研究開発者も、政府機関や民聞企業、教育関係者も、全ての人がこの懇談会で得られた論点や提言について自らのこととして受け止め、私たちの未来社会をより良いものとするために具体的な議論を続け、適切な行動を取ることを期待する。

 

報告書のExecutive Summaryは2ページのみ。それを入れても全体で19ページ程度にまとめられた報告書なので、目を通してみてはいかがでしょうか。

 

「人工知能と人間社会に関する懇談会 報告書」

http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/ai/summary/aisociety_jp.pdf