みたにっき@はてな

三谷純のブログ

つくばエキスポセンター 企画展「3次元のかたち~作る技術、感じる技術~」撤収

つくばエキスポセンターにて開催されていた企画展

「3次元のかたち ~作る技術、感じる技術~」

が、本日最終日となりました。

 

 

この企画展では、筑波大学が後援となり、私は監修という立場で関わらせていただきました。企画が立ち上がったのは半年以上前の話となります。企画の検討から準備、展示、各種のワークショップを通して、科学館の裏側を知る、貴重な経験をさせていただくことができました。

約2か月半にわたる展示期間では、折り紙をメインに、立体物の構成、表現を扱った内容を、多くの来場者に触れていただけたのではないかと思います。

 

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最終日の本日は、愛知工業大学の宮本好信教授による、回転建立方式(RES)による、板材からのドーム形状立ち上げのデモも行われました(リンク)。

 

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今回は、アクリル板で作ったテンプレートに沿って折り筋をつけて、それを折ることで球体を作れるようにしました。最終日には、ミームデザイン学校での受講生たちも来てくださり、球体折紙をワイワイ楽しく体験してくれました。

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本日、夕方の撤収も無事に終わり、これで私の仕事は一区切りですが、学芸員のみなさんは、さっそく次の企画展に向けて動き始めています。

 

ご協力くださった皆様に、感謝いたします。

 

関連エントリ

つくばエキスポセンターでの企画展と学芸員さんの仕事 - みたにっき@はてな 

 

 

書籍紹介 「折り紙学」(西川誠司著)

 

 

折り紙学 起源から現代アートまで

日本折紙学会評議員の西川誠司氏による、「折り紙学」という書籍が出版されました。

 

大きな文字とたくさんの写真が掲載された大型本です。

本文は優しい文体で書かれていて、小学生などの子どもたちを対象としているように見えますが、その内容は、折り紙の歴史を紐解く、しっかりと地に足の付いた構成となっています。

 

日ごろ何気なく「折り紙は日本の文化」と思っているところに、冒頭から海外の折り紙アーティストの作品が大きく紹介されていることに、まず驚くことでしょう。

表紙の大きなゾウは、スイスの折り紙作家の作品です。

 

パート1では、日本の折り紙の起源として平安時代の「畳紙」、室町時代の「折形」を経て、江戸時代に開花した折り紙の文化が紹介されています。

その一方で、フランスの画家カロリュス・デュランの作品『喜び楽しむ人びと』(1870年)に、折り紙が描かれていることを紹介し、ヨーロッパで独自に発展したと思われる折り紙の文化についても触れています。

 

私たちの多くは、子どもの頃から折り紙に親しんでいますが、その歴史については、驚くほど何も知らないできたことを再確認させられます。

 

日本が誇る文化の1つであるからこそ、その歴史については正しい認識をもっている必要があるでしょう。

 

パート1の後半では、折った後の形と展開図の関係に関する考察、科学分野への応用など、さらに一歩進んだ内容が紹介されています。

 

そしてパート2にて、ようやく一般的な折り紙本に見られる折り図が登場します。

 

このように、他に類を見ない、「折り紙『学』」の書籍を、敢えて子ども向けの本として出版された背景には、日本折紙学会の評議員代表も務められた西川氏の、「このような本が存在しなくてはならない」という強い想いを感じます。

 

願わくば、一家に一冊、というように普及して欲しいものですが、まずは各小学校や図書館などに置かれて、多くの子どもたちに手に取って欲しいと思います。

 

 

折り紙学 起源から現代アートまで

折り紙学 起源から現代アートまで

 

 

 

球の表面積の公式について

球の表面積を求める公式が {
S=4 \pi {r}^2
} であることを説明するGIFアニメをネット上で見つけました。

その見せ方がとてもかっこよかったので、Twitterでツイートしたところ。。

あまりにたくさんの反応をいただいて、驚きました(私は紹介しただけですが。。)。

ツイートしてからまだ2日目ですが、両方を合わせると3万4千を超える勢いとなっています。

なんだかんだ言って、みなさん数学大好きですね!

返信やリツイートの内容を見ていると、

「わかりやすいような気もするけど、でもやっぱりわからない」

という感想が多い気がします。

このGIFアニメは、次のようなステップで球の表面積を計算していますが、とくにステップ2の寄せ集めるところがわからない、という意見がたくさん見られました。

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たしかに、寄せ集めの部分はあっという間に変形して終わってしまうので、直感的によくわからないような気がします。

乗りかかった舟ですので、「わからないけど、わかりたい」という人向けに、手短に解説を試みたいと思います。

先ほどの図に対して、緯度線に色を付けてみると次のようになります(南極と北極が左右に来るようなイメージです)。

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寄せ集めた結果の縦方向の長さは、緯円(等緯度の円)の周長であることがわかります。極に近づくほど先細りになり、最も長いのはクリーム色で示した赤道部分で、その長さは {
2 \pi r
} です。

では、この「寄せ集めた結果の図形」の輪郭はどのような式で表されるでしょうか。

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経線で球を切断し、極から円周に沿ってxの値を取ると、上の図のように緯円の半径は {
r \sin {\theta} = r \sin (\frac{x}{r})
} で表されます。

{
 {\theta} = {\frac{x}{r}}
} となる理由は、少し考える必要があると思います。考えてみましょう!)

従って、緯円の周長は {
 2 \pi r \sin (\frac{x}{r})
} となりますが、GIFアニメの例では、これを半分に切って、上半分の面積を {
 0 \le x \le \pi r
} の範囲で積分しているので、GIFアニメに登場する数式の左半分が

{
 \int_0^{\pi r} \pi r \sin (\frac{x}{r}) dx
}

となるのです。

右半分も同様ですね。

説明終わり。

でも、球の表面積を求める方法は他にもありますから、このアプローチが唯一と思わないほうがいいです。

もっとわかりやすいと感じる方法もあることでしょう。

こちらとかも参考にしましょう。

球の体積と表面積を積分で証明 | 高校数学の美しい物語



以下は余談です。

ステップ2の寄せ集めてできる図は、サンソン図法と呼ばれる投影法で得られる形です。

サンソン図法 - Wikipedia

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サンソン図法では面積が実際のものと同一であるという特徴があり、この図の面積が球の表面積と等しくなります。



あと、Twitterを見ていたら

『球の体積の公式 {
V=\frac{4}{3} \pi {r} ^ 3
} を微分すると球の表面積の公式に一致する』

という書き込みが目にとまりました。

直径の異なる球の表面を足し合わせると、中身の詰まった球になりますから(玉ネギのように、球形の薄皮が重なり合うイメージ)、表面積の積分が体積になって、体積の微分が表面積になりますね。



それにしても、CGアニメーションを用いた説明は、とくに幾何学の分野で有効ですね。

これだけ多くの反応があるのですから、同様な映像が、もっとたくさんあったらいいなと思います。

ただ、そうは言っても、ビジネスとして取り組むのは難しいような気もします。ボランティアでもいいのですが、うまく予算を確保して、体系的に整備できると、教材としても使いやすくなるだろうなぁ、とは以前から思っているところです。

以下は約2年前の関連エントリです。

junmitani.hatenablog.com

ローレンツ アトラクタ

この二重振り子の話をTwitterで見かけて、面白いなぁと思いました。

 

その後、別の方のこのようなツイートも。

 

うわー。楽しい。

初期値がほんの少し違うだけで、その後の挙動が大きく変化するような現象は、カオスの分野でよく研究されています。

カオス理論 - Wikipedia

 

 

私の場合、カオスと言ってすぐに思い当たるのがロジスティック写像とローレンツ方程式で、ローレンツ方程式だったらすぐに実装できるでしょうと思ったので、さっそくJavaScriptでアニメーション表示してみました。

 

 個々の点をローレンツ アトラクタと呼ぶみたいですね。しばらく一緒に動作しながらも、ある一定時間たつと、バラバラになって、それぞれが独立して渦を描くように動き出します。

 

Wikipediaに掲載されている微分方程式は次の通り。

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それぞれの微分値を微小時間 dt の値だけ掛けて加算すればよいので、簡単に計算できます。

プログラムコードはこんな感じ。

Lorenz attractor

 

精度よく計算するために、ルンゲクッタ法を使用する方法が紹介されていることもありますが、今回は精度は気にしていません。初期値の設定もかなり適当ですので、いろいろいじってみると、面白い結果がえられるかもしれません。

 

 

 

日仏フォーラム「人工知能は社会をどのように変えるのか?」

六本木アカデミーヒルズで開催された、日仏フォーラム「人工知能は社会をどのように変えるのか?」

http://www.institutfrancais.jp/blog/2017/05/16/ai/

に参加し、各界で活躍されている方々のパネルディスカッションを聴講してきました。

 

人工知能を活用した技術が様々に普及した近い将来に備えて、今考えるべきことについて、倫理、法律、仕事、教育の観点からの議論がされました。

 

9時半から、昼休みを挟んで18時まで、という長丁場で、たくさんの話があったので、とても全体を整理しきれないので、以下に本当に少しだけですが、私の心に響いた発言を書いてみます。

 

冒頭、南條史生氏の基調講演では、「 AIが全て仕事をやってくれる時代になったとき、仕事以外での時間の使いかたが問題になる。じつは日本の江戸時代が、平和に時間を過ごすモデルになるのではないか。この時代、平和で豊かであり、いろいろな芸術に流派が発生し、その技を競い合った。仕事が無くなったら、人は芸術に没頭することができる。」という趣旨の話をされていて、さすが森美術館館長。と思いました。

 

最初のセッションで、倫理的な問題について議論がされるなか、フランスの法学部の教授による、「倫理について議論しながらも、実は皆さん、権利と法律について語っている。人類は、これまでにずっと、法律によって許されることと、許されないことを定義してきた。法学的な議論こそが必要とされている。」という趣旨の発言に、オッと思いました。今まで人工知能の分野で、法学の方の話を聴く機会がなかったので、まさに、様々な分野を横断する議論が求められていることが、明確に示されたと感じました。

 

今回、唯一のエンジニアであったPreferred Networks の丸山宏氏は最後に、「機械学習という技術は、人間の認知バイアスにつけこむサービスを作り出すことが得意な技術であることを知っておく必要がある」という点を強調されていました。

 

最後のセッションの司会をされた、野中ともよ氏は、最後に「今回のフォーラムのタイトルは『人工知能は社会をどのように変えるのか?』となっているが、 私たちは、そもそもどのような社会をつくりたいのか。そして、そのために、どのような人工知能を作るのか。そういう考え方をしなければいけない」という趣旨の発言をされいました。

 

このフォーラムの中でも言及されていましたが、一方では Amazon、Apple、Google、IBM、Microsoft、Facebookなど、そうそうたるIT企業がPatnership on AI という研究団体を立ち上げるなど、時代はどんどん進んでいます。

Home | Partnership on Artificial Intelligence to Benefit People and Society

 

 私自身が生きているうちに、どのように世の中が変わっていくのか、とても興味深いです。

アニメ「正解するカド」に登場する球体折り紙(2)

今シーズンのアニメで話題になっている「正解するカド」に登場する球形の折り紙について、2つ前のエントリで紹介記事を書きました。

 

junmitani.hatenablog.com

 

球体の折り紙が実際に作れることと、その型紙をTwitterで紹介したところ、多くの方に関心をもっていただけたようです。

 

その日のブログのアクセス数は2万を超え、現時点で700を超えるはてなブックマークが付いています。また、最初のツイートはインプレッション(見ていただいた回数)は32万を超えました。

 

正直なところ、デスノートとシン・ゴジラの時以上の反響の大きさであるような感じで、アニメのパワーと、情報拡散のスピードに改めて驚いています。

 

さて、続く第6話では、次のような6つの球体がつながった状態を皆が作り上げるシーンが登場しました。このような形は実際に作れるのでしょうか?

 

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「正解するカド」第6話の冒頭シーンより  (C)TOEI ANIMATION,KINOSHITA GROUP,TOEI

 

1枚の紙でツルツルな球を作ることはできませんが、外側に襞を折り出す(プリーツ)か、内側に襞を押し込む(タック)の技術を用いることで、球形を作ることができます。

 

前回のブログのエントリでは、1つの球体と、球体が2つ連結した状態のものを紹介しました。

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球体はいくつでも連結できることを述べましたが、球体の大きさは、外に折りだすプリーツのサイズで調整できるので、異なる大きさのものを連結することもできます。

 

私は以前に、筒の状態から立体的な折り紙のかたちに変形する様子をアニメーション表示するソフトウェアを作ったことがあったので、それを使って大きさの異なる6つの球が連結したものを折り出す様子を再現してみました。

 

youtu.be

 

Twitterでは、少しふざけて次のように書いてしまいましたが、

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CGのアニメーションでは、折り線の位置が少しずつ移動しているので、実際に作るときとは異なります。実際には、筒を閉じない状態で上から順番に捩じるようにして1つずつ球を作っていきます。

 

本当に、CGのアニメーションのように作れると思った方には、ごめんなさい。

ただ、紙の大きさと形はCGアニメーションの最中でも常に一定(いわゆる等長変換)ですので、布のように柔らかいものであれば不可能ではないと思います。また、CGのように折り筋が移動するような状態を、折り紙研究の世界では moving crease と言って、連続的な形状変化を伴う折り操作の1つとみなされています。豆知識。 

 

さて、実際には左下のような展開図を折ることで、右下のような形を長方形の紙から作り出すことができます。

 

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週末にちょっと試してみたのですが、正直なところ、なかなか苦戦しました。

一筋縄ではいかないですが、展開図のPDFファイルをこちらに置いておきましたので、興味がある方は挑戦してみてください

http://mitani.cs.tsukuba.ac.jp/dl/2017/connected_six_spheres_(J_Mitani2017).pdf

A3サイズより大きい紙でないとうまくいかないと思います。

 

これで、折り紙の幾何学に興味をもってくださった方は、出版社さんや書店さんが宣伝してくださっていますので(^^; 拙著「立体折り紙アート」のページ

https://www.nippyo.co.jp/rittai_origami/

をご覧いただければと思います。

 

 

 

肩の力を抜いた働き方

今朝は9amから、アメリカの研究者とSkype Meetingしましょう、という予定を組んでいてたので、その5分前にはPC上でSkypeを起動してスタンバイしていたのですが、「今、移動中なので、ちょっと無理。次はいつだったら大丈夫?」というメッセージが届いて、今日の打ち合わせはお流れになってしまったのでした。

 

がーん。

 

まぁ、この手の話は海外の研究者との間では日常茶飯事で、今更驚かないのですが、この気楽さには少し羨ましさを感じてしまいます。

 

私の観測範囲などたかがしれていますが、日本ほど勤勉にキッチリ物事をすすめようという国民性を持った国はなくて、海外のどこに行っても、あらあらまあまあ、と口に出てしまいそうなくらいルーズで、ずいぶんな適当ぶりが目につきます。

 

学会の運営もなんとなく適当だったり、当日予定されていたイベントが突然にキャンセルになったり、言っていることが二転三転したり、想定外のタイミングでワークショップを要求されたり。

このようなことが頻繁に起こるので、海外に行った時には、想定外の事態が起きてもかなり平穏な気持ちで対処できるようになっている気がします。

 

少し街に出れば、コンビニの店員さんがレジの前でアイスを食べていたり、コーヒーショップの店員さん同士で話が盛り上がっていて、なかなか注文を取ってくれなかったり、タクシーの助手席に運転手の恋人と思しき人が乗っていたり、日本では見られないことを目にしてきました。

 

海外の人に仕事のメールを送ると「今バカンス中なので、○日以降にメールしてください」という自動返信メールが届きますが、日本の企業の人から深夜に書かれたメールが送られてきたりするのを見ると、この働き方の違いはどこから来るのかな、と考えてしまいます。

 

勤勉を尊ぶ精神は大事なのでしょうが、私たちはいつの間にか、自分たちで自分たちを厳しく縛り付けてしまっているような気もします。

 

厳密にしっかり対処すべきところは、しっかり対処すべきでしょうが、意外と世の中、そんな場面は多くなくて、それ以外の所では肩の力を抜いて、のんびり楽しく仕事ができたらいいな、と思います。