みたにっき@はてな

三谷純のブログ

立体折り紙アート - 数理がおりなす美しさの秘密

これまでの折り紙制作の内容をまとめた本、


「立体折り紙アート - 数理がおりなす美しさの秘密」


が7月20日発売の予定となりました。



Amazon の書籍のページ


折り紙の研究を始めたのは10年前くらい前で、当初は下の図のように、平らに折りたたまれるものを主な研究対象としていました。



↑山谷の線図から折りあがり後の形と紙の重なり順を推定するソフトウェア、ORIPA


立体的な形を作り始めたのは、今から6年ほど前からになります。
単純な原理から、下の写真のような丸みを帯びた形を作りだせることがわかり、折り紙の設計と創作が楽しくなりました。


これまでの間に、立体的な折り紙を対象とした設計用ソフトウェアを複数開発し、
それらを使って、普段見かけないような「面白い」「綺麗だ」と思えるような形づくりをしてきました。
そしてそれらの多くを Flickr で公開してきました。
https://www.flickr.com/photos/jun_mitani/



↑ソフトウェアで設計して制作した折り紙作品


そしてこのたび、これらの成果をまとめる形で、1冊の本を出版できる運びとなりました。

立体折り紙アート

立体折り紙アート



折り紙に関するものとして、すでに「ふしぎな 球体・立体 折り紙」と「立体ふしぎ折り紙」という2冊の本を二見書房さんより出版させていただいていますが、今回はそれらとは違うコンセプトでまとめました。


ふしぎな 球体・立体折り紙立体ふしぎ折り紙


前述の2冊の本は、いわゆる「型紙集」であって、切り離して組み立てるタイプのものです。


出版時の思いとしては、


「こんな形が1枚の紙からできるんだよ。作ってみて!」


というものでした。


今回の


「立体折り紙アート - 数理がおりなす美しさの秘密」


は、サブタイトルの通り、これらの形がどのようにして作りだされたのかを説明する、言わば「タネあかし」のような内容になっています。


「ねえ聞いて。こんな方法で、こんなに綺麗な形が作りだされるんだよ。面白いね。」


というのが、本書を通して届けたいメッセージです。


これまでの研究を通して、1枚の紙を折るだけでも、実に様々な形が作れることがわかってきました。
これらの知見は、日本図学会の学会誌にて6回の連載を通して紹介してきました(これらの記事はこちらで公開されています)。

また、Flickrで公開している写真も240件を超えました。

ワークショップや展示会を通して、多くの方に見ていただく機会もいただきました。

できることは一通りのことをしてきました。
そろそろ1つの大きな区切りであるように思えます。


このようなタイミングで、1冊の本を出すことができたことは、とても光栄なことです。
出版社の日本評論社さまに感謝申し上げます。


収録されている内容は、日本図学会に連載した折り紙に関する事柄と、Flikerに収録されている写真(新しく撮りなおしたものも含みます)、それらすべての展開図、そして、それらをどのようにして設計したかの説明。さらには、5つの「作ってみよう」コーナーと、5つのコラム、と盛りだくさんです。これまでの研究の「集大成」と言っていいかもしれません。

展開図は、厚紙にプリントアウトしたり、カッティングプロッタをお持ちの方は、データから折り筋加工ができるように、PDF、DXF、SVG形式ですべて公開する予定となっています。


これまでの「集大成」なので、すでにWebなどで発表済みの内容も多く含まれます。
まったく新しい内容を期待される方には、申し訳ないですが、少し残念に思われるかもしれません。
この点は、ここでお伝えしておきたいと思います。




では、この本をどのような人に手に取って欲しいかというと、実はなかなか難しいです。
本当はよくないかもしれないですが、いわゆる「読者像」というものはあまり想定せずに、


僕に書けるものは書く、僕が書かなければいけないものは書く、


というスタンスで取り組んできました。



対象としている折り紙は、正方形に限定されません。
また、形を安定させるために仕上げる時にはノリで一部を貼り合わせる必要があるものがほとんどです。
折り線は、計算で求めたもので、時には曲線を含みますから、何もない状態の紙から簡単に折り出すこともできません。

一般的な「折り紙」とはかなり違ったものばかりです。


ですが、後から振り返った時に、1つの折り紙研究、創作における新しい分野の草分け的存在であると評価いただけたら、と夢見ています。


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以下に、本書の冒頭にある「はじめに」の全文を紹介します。

私たちの身近にある紙は,文字や絵を描くキャンバスとしてだけでなく,切って折って貼りあわせ
て形を作る,楽しい創作活動の素材としても,なくてはならないものの1つです.紙を自由に切り
貼りすることで,どんな形でも自由に作れそうな気がします.一方で,それを許さずに「折る」と
いう操作だけに限定すると,必然的に作れる形は限られてしまい,なにかの形を作るには少し窮屈
そうに思えます.でも本当にそうでしょうか.この「折る」という操作だけで形を作る「折り紙」の
世界を覗きこんでみると,実は幾何学と多種多様な表現がおりなす,不思議で魅力的な空間が広が
っているのです.


 紙を折って形を作る,遊戯としての「折り紙」は,日本において数百年もの歴史を有し,幅広い
世代に親しまれています.多くの人が幼少期に鶴や兜を折った経験をもっていることでしょう.長
い歴史の中で,折り紙の技術,つまり1枚の紙から意図した形を作りだす技術は進歩してきました.
背景には,折り紙に関する数学的な知識の積み重ねがあり,折り紙の「設計」に関する理論が作り
だされてきたことがあります.さらに,この設計に必要な計算を,コンピュータに行わせるための
プログラムが登場し,折り紙の世界は目覚ましい進歩を遂げました.


 幼少期の体験以降,折り紙に触れる機会が少なくなってしまっている読者の方もいると思います
が,そのような方にはきっと想像がつかないくらいに,21世紀の折り紙は驚くような進化を果た
しています.とくに,曲線に沿った折り操作,曲面をもった造形などは,コンピュータを用いるこ
とで実現した,新しい折り紙の分野と言えるでしょう.


 本書では「計算」によって導き出された,立体的な構造を持つ作品群を紹介するとともに,その
設計方法について解説を行います.多くは曲面を含む立体構造を持ち,いくつかは複雑な造形です
が,その背景にある理論は極めてシンプルです.一見した限りではまったく異なる造形の折り紙が,
共通の理論のもとに設計できることに驚かれることでしょう.本書では数多くの写真と,その設計
図である「展開図」を収録しました.これらの展開図はすべてインターネット上で公開しています
ので,どなたでもダウンロードして印刷することができます.


 そうそう,大事なことを書き忘れていました.本書で紹介する折り紙で使用する紙の形は,正方形
ではなく,長方形であったり正多角形であったりさまざまです.最終的な形を安定させるためにノ
リ付けが必要だったりします.少しだけルールを緩めることで,作れる形の幅は大きく広がります.


 本書を通して,平面に描かれた直線や曲線の集合から,幾何学的な美しさを持つ立体的な構造物
が折り出される妙を堪能していただければ,それに勝る喜びはありません.

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4535787751/